トルクレンチ校正

改造レシピ一覧

グランドアクシスBBS で「トルクレンチを緩め作業に使用すると壊れる。」という話題が出た。
 
わたしのトルクレンチは“ラチェット方向切り替えレバー”が付いている。
つまり、緩め作業に使ってもいいように作られているはずだと考えていたので、壊れるかどうかなどとは
疑いもせず緩め作業にも10年近く使ってしまった。
 
そういえば、このトルクレンチは使い始めてからもう10年近くになるのだ。2,3回は校正に出していても
おかしくない使用年数だ。校正に出せば壊れているかどうかも分かるというものだ。
 
しかしトルクレンチの校正なんてどこに出せばいいのだろう。
今となってはどこで買ったのかさえ覚えていない。
 
でも、考えてみればトルクの概念なんて単純なものだ。
原理的に正確なトルクを発生させる仕掛を作ってトルクレンチの目盛との整合性を見ればよいのだ。
 
 
 
 
 

トルク測定装置

装置なんて大げさなものでもない。
トルク入力軸を設け、その軸に出力レバーを取り付け、そのレバーの先端で発生する荷重を体重計か
なにかで測れば良い。
 
ますはレバーの長さを決めよう。
単位通り、1cmのレバーでは、わたしの450kg・cmのトルクレンチの性能を検証するには、450kgの
ハカリが必要になる。
しかし同じトルクが発生している場合、出力レバーを長くすればその先端で発生する力は小さくなる。
単位を例に考えてみると分かりやすい。
たとえば、100kg・cmのトルクが発生しているとする。
前述のように1cmのレバーでは先端の荷重は100kgだが、レバーを10cmにすれば先端で発生する荷重は
10kgである。
 
我が家のデジタル体重計は最大136kgまで測定できるので、10cmレバーだと1360kg・cmのトルクを測定
できることになる。
しかし体重計の幅が30cmあり、10cmレバーでは届かない。25cmとか50cmとかだと届くが、
いちいちトルク値を計算し直さないとならない。
ここはいっそのこと1mレバーにしてしまうのだ。
 
1mレバーだと、100kg・cmのときは先端荷重は1kg。食品用の2kgはかりを使えば10kg・cmレベルで
測定ができる。ただし、測定できても200kg・cmまでだが。
P000377s.jpg 用品一式。
レバーはDIYで売ってたアルミの平角管。長さ1mとして売ってた。101mmだった。
断面は25mm×15mmの長方形で板厚1.2mm。\800だった。
ほかはジャンク箱のなかの廃材を削って作った。
見覚えのあるローラーもある。
 
 
P000378s.jpg 入力軸はフライスのベッドを利用して固定する。
フライスのベッドをわたしが寝てるベッドに穴を掘って固定する。
いいのだ。わたしが作ったベッドなのだから。(総ヒノキ作り)
穴の間に置いた部品は“鬼目ナット”という、木にメートルねじ穴を作る部品。
DIYで見つけてよくお世話になっている。
 
 
P000379s.jpg 鬼目ナットをねじ込んだところ。
この鬼目ナットはISO-M6用である。
 
 
 
 
 
P000380s.jpg フライスのベッドを総ヒノキのベッドに固定したところ。
主軸ユニットには用はないしジャマなので取外し。
 
 
 
 
 
P000381s.jpg レバー入力軸側。
2面幅10mm(M6用)の六角頭を作ってある。
 
 
 
 
 
P000382s.jpg 出力側。
レバーが1mもあるとトルクをかけたときにレバーがしなって
天秤に当る部分がスライドするのでローラーで天秤を押す。
つい最近の失敗作“ベルトガイドローラー”をそのまま使用。
 
 
 
P000385s.jpg 出来あがったトルク測定装置全景。
入力軸は シリンダ加工の時に作った冶具で受ける。
なるべく汎用性が出るように工夫して作った冶具だったので、
役に立ってちょっと嬉しい。
モチロン両端ベアリング支持である。
 
 
P000386s.jpg トルクレンチを掛けたところ。
 
 
 
 
 
 
P000387s.jpg 出力側。これは136kg体重計の場合。
荷重測定に重力を利用することになるので、厳密には入力軸と
体重計押し部は水平になっていなければならないが、振り子の
周期計算における振り子の上下動差といっしょ。無視して問題はない。
ただし、先端のローラーはなるべく正確に入力軸から1000mmになる
位置に取り付ける。
 
P000383s.jpg 出力側に最大2000g、分解能0.1gのデジタル天秤を当てたところ。
最小で0.01kg・cmのトルクを検出できることになるが、トルクレンチの
校正にはそこまでの精度は必要ない。
最後の目盛合わせの際に役に立った。
 
 
 

まずは挙動の把握から

トルクチェック音がして、ハンドルが「カクッ」となるとき、発生するトルクがどういう変化を示すかを
把握するために、レンチのハンドルをいろいろな速さ、押し方で操作してゲージの動きを見る。
 
体重計のほうは最小表示が0.1kgで偶数しか表示できないので、ハンドルを普通に押しても
安定して同じ数値が出るが、デジタル天秤は分解能が細かいためチェックがかかる瞬間の数値が
読みにくい。
 
P000388s.jpg そこで、デジタル天秤のときはハンドルを延長して回転角度を
微小にコントロールすることにした。
こうすると、ハンドルに手を掛ける位置が天秤に近くなるので
デジタル表示が見やすくなるという利点もある。
最大値メモリーがあれば事足りる話ではあるが....
 
 

測る

まず体重計のほうで、100,150,200,250,300,350,400,450kg・cmの各設定トルクで
チェック音がしたときに何kgを示したかを測定する。
 
また、以前から気になっていた
「ダイヤルを右回しで合わせた場合と左回しで合わせた場合とで有意差は出るか?」
を検証するため、0→100→150→200→250→300→350→400→450kg・cmと上げて行き
今度は逆に450から→400→350→300→250→200→150→100kg・cmと下げていってそれぞれの
値を各5回測定した。
 
登り方向(ダイヤル右回し)測定結果:kg
1回目2回目3回目4回目5回目平均
100kg・cm0.80.80.80.80.80.8
150kg・cm1.41.41.41.41.41.4
200kg・cm1.81.81.81.81.81.8
250kg・cm2.22.22.22.42.22.24
300kg・cm2.82.62.82.82.82.76
350kg・cm3.23.23.43.43.43.32
400kg・cm3.83.83.83.83.83.8
450kg・cm4.44.44.24.24.44.32

下り方向(ダイヤル左回し)測定結果:kg
1回目2回目3回目4回目5回目平均
400kg・cm3.83.83.83.83.83.8
350kg・cm3.43.23.23.23.23.24
300kg・cm2.82.82.82.82.82.8
250kg・cm2.22.22.22.22.42.24
200kg・cm1.81.81.81.81.81.8
150kg・cm1.41.21.41.41.41.36
100kg・cm0.80.80.80.80.80.8
 
 
 
 

あきらかにヘタり傾向、直して使う

すべてのチェック値で0.2kg、トルクにして20kg・cmもダイヤル値を下回っている。
これは、緩め作業に使用したからなのか?それとも使用期間が長かったために内臓バネが
ヘタったのか?
 
同じような使用期間で、ゆるめ作業に使わない条件での測定結果報告がないので(というか工具屋でも
ないのにそんな報告をする人はいないと思う)断定はできないが、測定値が均一して下がっているので、
校正を行えばこのレンチはまだ使えそうではある。
 
また、ダイヤル回転方向によるチェックトルクには有意差はないと言えるだろう。
左回転と右回転で差があるチェック値があるが、上に転ぶか下に転ぶかはマチマチだからだ。
 
*50kg・cmでバラつきが出るのは、チェック値と実際の値がちょうど20kg・cmずれていることを表している。
測定に使った体重計は0.2kg刻みでしか表示できないため、十の位が奇数のチェック値を測ろうとすると
測定値を中心に体重計の表示値が上下にバラつくからだ。
十の位が偶数だと測定値が表示値の中心に入るのでバラつきが少なくなるのだ。
 
 
 
 
 

地獄の校正作業

さっそく校正しよう。
トルクレンチの中腹に小孔があって、「ハガしちゃダメ」と書いたシールで封印してある。
最初に言っておく、ここはイジっちゃダメ!!!
イジって地獄を見てしまった。(何度目デスカ?)
 
「ハガしちゃダメ」と書いてあったので、「調整時はココをイジれってことだろう。」と思って穴の中を見ると
六角形の穴が見える。
六角穴付き止めねじ(通称セットボルト)の穴だろう。
ちょうど2mmの六角穴に見えたので2mmの六角レンチを突っ込むとジャストフィット。
最近、カンが冴えてる。(肝心なトコロが冴えてない)
 
測定器をデジタル天秤に取り替えてダイヤルを100kg・cmに固定して初期値を測る。830kg・cmであった。
右に回してトルクを測り、左に回してまた測り、挙動を見る
 
左(反時計回り)に回すとチェックポイントが上がるようなので、90°づつ回しながらトルクを測る。
 
ところがあるところを過ぎるとチェックポイントが逆に下がり始める。
830kg・cmから始まって930が限度である。
 
なら、逆に回すとどうよ?と思いなおして時計回りに回していくと930まで上がって今度はどこまでも
下がって、しまいにはチェックがかからなくなる。
 
もういっかい元のあたりまで戻してトルクを測って860。
この状態でダイヤルを450kg・cmに合わせてトルクを測るとなんと520kg・cm!!
 
どうやら、この穴(の奥のセットボルト)はバランスを調整する所らしい。
今回の校正のように全体的にチェックポイントを上げるのはダイヤルそのものをズラすのが正解
みたいだ。
 
トルクレンチの取説には「ハガすな」としか書いてなかったような気がするし、校正方法なんてたぶん
触れてさえいなかったと思う。
 
今は亡き取説に恨み言を言ってもはじまらないので、セットボルトをチョコっと動かしては100と300で
トルクを測り、またチョコっと動かしては300と100でトルクを測り....結局30分かけて元の
「全体的に20kg・cmプア」のところまで持っていって、ダイヤルバラし作業に入る。
 
P000393s.jpg バランス元に戻すんで四苦八苦してるうち流血しとるし....
 
 
 
 
 
 
 
P000394s.jpg 上のほうの値と下のほうの値が同じ方向に同じだけズレている
場合はここをイジっちゃダメ!!
 
 
 
 
 
 
P000389s.jpg ダイヤルホイール内側の蝶ネジの回転を制限しているバネピンを
ニッパーの先で(切るなヨ)抜き取る。
 
 
 
 
 
 
P000390s.jpg 次に蝶ねじを反時計回りに回して取外す。

 
 
 
 
 
 
P000391s.jpg そうするとダイヤルホイールが抜けてくる。
 
 
 
 
 
 
 
P000392s.jpg ダイヤルホイールは、スプライン軸と噛み合っていて、0.25kg・cmに
相当する角度で入れかえることができるので、ズレてる分だけ
回して入れ直す。
組み立ては逆順。
 
 
 
 

それなりに得るものもあったけど

やっぱりなんとかしてプロに頼むのが正解だと思う。「コレ、もうダメだよ」と言われたら買いかえれば
いいのだ。
 
それに、全体的にズレてるなら、気にしないという手もある。
以前、日経メカニカルという雑誌で、半年くらいねじの緩みとトルクチェック法の限界について特集を
組んでいたことがあった。
 
同じ工具を使用しても、人が変わるとネジの中心の軸力(トルクではない。ネジを締め終わったときに
ネジの内部に残る引っ張り応力)が20〜30%もバラ付くんだそうだ。
 
要は、1行程の作業(たとえばシリンダヘッド締めつけとか)内でのバラつきを押さえることを考えれば
いいのだ。
 
 
いっそ新しいの買おうかな....
単位系も変わったことだし....
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