4VPシリンダー水冷化、その1:シリンダー編
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4VPは焼きますねぇ....
正確には、ボアアップやマフラー交換なんかで熱裕度が低くなってくると、 スロットル半開時なんかにシリンダーがビービー泣き始めて、 そんな状況を放っておくと突如「も゙〜〜〜〜」っとピストン抱き着き。
冷却性能を上げれば焼き付きの危険は低くなるだろうから、冷却性能向上となれば水冷ですよね。 水冷といえば4VP系では
改造小僧さん
のヘッド水冷なんかが先駆者と言えると思いますが、 抱き着くのがシリンダなんだから理想的には全水冷にしたい。
全水冷のアイデアは
vuu
さんなんかとプチオフした時なんかに、 しょっちゅうファミレス机上で妄想検討会を開いたりしたもんですが、 「コレで決まり!」というアイデアがなかなか出なくて、 いつも妄想で終わってました。
どこかから4VPエンジン用の水冷シリンダーが出てればそれを買いたいところなんですが、 この件を考えてた2005年初頭ではそういった気の利いた商品は市場に存在しませんでした。
無いとなると4VP空冷シリンダーを無理やり水冷化するしかないのですが、 簡単に水冷化できるなら悩みはしないわけですよ。
空冷シリンダーを水冷化する場合の課題っていったら、何でしょうか?
空冷フィンの周りに溶接でウォータージャケットを形成する場合
当然ながら溶接の機材や技術が必要となる。
2005年現在ではウチにはどちらもない。
また、溶接の歪み取りのために最後にシリンダボーリングが必要。
既存の水冷シリンダーを移植する場合
クランクケースに大幅な追加加工が生じたり、 上げ底用のベースプレート作ったり、 挙句はエキパイ形状が全然違うのでマフラー作りなおし。
考えてるだけで萎えてきちゃう。
ただし、この方式をモノにしてる車両は相当のパワーが出てるみたい.... YPVS動かしてみたりと、トライしてみたい気はあるんだけど....
4VPシリンダーの周りに組み立て構造でウォータージャケットを形成する場合
ウォータージャケットブロックとシリンダーの接合方法は?
ウォータージャケットブロックをシリンダスタッドが貫通するわけだけど、 スタッドが通る部分をジャケット構造物で隔離しちゃうと、 シリンダ全周に水を当てるのが難しい。
スタッドを水に晒す構造だとスタッド錆びちゃうし。
・・・・やっぱ問題が多すぎて、考えてるだけで萎えてきちゃう。
取り敢えずこの問題は置いといて仕事しなきゃ....
H.I.D.の仕事でNSRやTZRなどの水冷シリンダーの加工を受けることも多いのですが、 大抵の水冷シリンダーはウォータージャケットが掃気ポートから上半分だけ。 こんな感じで4VPシリンダーの上半分にウォータージャケット(以下W/Jと書きます)作れないかなぁ.... いいよなぁ、水冷シリンダーはスタッドがW/Jの外に出てて.... あれ?そういえば
ランナー
のシリンダーってスタッドがW/Jの中を通ってるんですよね。 スタッドに亜鉛メッキが掛けてあるので、ある程度防錆効果はあるものの、水に浸してしまえばいつかは錆びる。 逆に考えれば少々錆びたって問題ないのかな....
なんて思いつつシリンダーを眺める日々。
そんなある日、
KN企画
のAxis90用全水冷シリンダーの加工を受けたんです。
このシリンダーは冷却水とスタッドがシリンダ構造物で隔離されてるんだけど、 W/J内面は鉄の鋳物の肌が無加工で水に晒されてる、 なのに、受け取ったシリンダーの内面は特に錆は出てなかったんです。
考えてみると、冷却水に混ぜるクーラントには防錆成分が入ってるなんて聞いたことがあるし、 クーラント混ぜておけば錆の問題は特に気にしなくてもいいのかもしれません。
そもそも何万kmもノーメンテで走らせるつもりなんかサラサラ無いんだから、 時々シリンダ開けて、スタッドが錆びてたら交換すればいいジャン。
スタッドを水没させても良い、と考えてみると4VPのスタッド基部って、 掃気ポート付近から下はシリンダーの構造物でフルカバーされてるので、 掃気ポート上面のフィンの位置からW/Jを生成させれば、 スタッド自体はシリンダの構造物とベースガスケットで水の中に閉じ込められちゃうんです。
となれば、シリンダ・スタッド・ヘッド、が一体となった構造物をW/Jで包んでしまう構造にすれば、 4VPシリンダーに限って言えば水冷化は可能なのではないか?
シリンダー外周加工
思い立ったら吉日。
ほとんど脊髄反射的に使ってなかった52mm4VPシリンダーの腰から上のフィンを削り落としてみることにしました。
まずは要らない空冷フィンを切断。
不思議なことに、このフィンって先端だけが焼入れされたみたいに妙に硬いんですよ。 途中からノコがツルツル滑りだすんです。
つっても、ノコの刃が立つところまで切り進んだらハンマーでコンと叩くとポロリ。
よっしゃぁ〜、取り敢えずW/J下面との接合面が確保できる程度の直径まで削り込んでみるかぁ〜
と、テキトーに作業を始めたのですが、ある程度切削が進んできたところで、 排気流路の天井に穴があいちゃったんです。
あちゃぁ〜、これじゃダメじゃん。
排気流路の天井部分だけピョコッと残す加工ってのはウチの旋盤では無理。 ここを残すように円錐形状に加工すると、今度はW/J床板との接合面が確保できない。
どっちにしろ排気流路に穴があいちゃったシリンダーなんて使い物にならない。
ヤメだヤメ〜!
酒飲んで寝るべ。
と、この日は機械にシリンダを咥えたまま作業を放棄して、トットと風呂に入っちゃったんですが、 来たよ来ましたぁ〜!
オレのブレイクスルーは、風呂とか便所とかでリラックスした瞬間にくることが多い!
一日の疲れを取るべく湯船に浸かり、「ヴェ〜〜〜」と呻いた瞬間に、
(貫通さしちゃえばイイジャン、床板の下面で止めればいいじゃん)
とひらめいたんです。
つまり、シリンダは貫通するに任せて単純に円筒形に削りあげ、貫通した穴はW/Jの床板で塞げば良い。
W/J床板の厚みを貫通穴を覆い隠すように設定すればW/J床板が排気流路天井を兼用することができる!
しかもこれまで天井の位置が制約となり頭打ちになっていた排気ポート上げも、 制限要素である天井自体が消滅してしまうことによりさらなる上げが可能に!
そういえばSS1/32レースに出てる人のシリンダーがポート上げすぎであいた穴をデブコンで埋めてた、 なんてのを見たことだってあるしな。
コレじゃ、コレなんじゃよ。
一見別々に存在していると思われていた諸問題が、一つのアイデアをキーに繋がって、次の瞬間に全てイッキに消滅する。 この瞬間が楽しくて自作改造をやってきたようなもんだ。
ヨシ、これで決まりだ。今日はウマイ酒が呑めるぜぇ(って、結局呑んで寝るんじゃん)
翌朝、当初予定していたラインまで貫通上等で削り込む。
パックリ抜けた排気ポートの天井から明るい未来が覗けるようで気分爽快。
ウォータージャケット構造設計
さて、シリンダーのほうは必要最低限の形状に削り上げたので、 このシリンダー形状を基本にして、新造パーツの設計に入ります。
まずW/J床板、排気流路の一部を兼ねるために6mm以上の厚みが必要、 6mmピッタリじゃ排気が噴出するのは目に見えてるので、マージンを持たせて重くなりすぎない厚さっていうと8mmか。
床板とほぼ同じ断面形状になるW/J天井板も自動的に8mmと。
シリンダスタッドは付いてるものをそのまま使う予定なので、ヘッドブロックの締め付け面の高さも自動的に決まる。 そこからW/J天井板までの距離を決めるのはスパークプラグの寸法か。
せっかく新規設計するんだから、放熱容量の高いロングプラグを使うことにしましょう。
これでW/J天井板の位置が決まるので、床板と天井板を繋ぐW/J壁面の構成を考えてみましょう。
アルミのカタマリから削りだすなら何だって作れますが、全部削るなんて疲れるじゃん。
必要なのは床板と天井板をつなぐ“壁”。市販のオイルシールで水止めできるようにするなら円形断面でしょ。 円形断面の壁っていうと、つまりはパイプでしょ。
アルミパイプって押し出し成形材のA6063で色んなサイズがあるんです。 仕事で材料を買ってるショップは切り売りもしてくれるので、そこの在庫(≒市場に存在する規格サイズ)から買えるサイズで考える。 そのパイプ内径サイズを決める制限要素はヘッドブロックの形状。 スタッドナット座面を受け止める面積を確保しつつ、直径が大きくなりすぎないサイズを検討するとヘッドブロック直径は90mm。
内径90mm前後のアルミパイプっていうと、材料ショップで入手可能なのは内径100mm。
冷却水の入り口/出口はこのパイプの表面にネジで設置する予定なので、 ある程度のネジ長さを確保するために厚みもそれなりに、ということで厚みは5mmとして外径110mm。
あとは素材形状、各機能要素の配置、締結構造、シールリングの仕様などから各部の形状を決めていき、
だいたいこんな感じになりました。
細部の形状はまだ暫定。
冷却水はW/J天井板近くのニップルからを導入され、 ヘッドブロックを冷やしつつ、ヘッドブロックのフランジで攪拌され、 シリンダ側面冷却部へ進行、最後にW/J床面近くのニップルから排出され、ラジエターへと向かう。
用品製作
下部ベースプレートから作ってみました。
液体ガスケットで密着させてM4ボルト4本でダメ押し固定する構造です。
上の図を見ると、ヘッドブロックから天井板→外側パイプを通じて床板を押さえるように見えますが、 製作時の公差の積み重ねで0.5mmほどのギャップができるように設計しました。
押さえたほうが良い気もしますが、どうせ何かで回り止めをしないといけないし、 外側パイプで積極的に押さえる構造となると、 使ってるうちに上下板のフランジが変形してくると思うんだよな。
変形しちゃうと押さえ力がなくなっちゃうので、どうせ期待できない力は最初から使わないに限る。
W/J壁面パイプ&天井板。
正面より。
うわっ、カッコ悪っ
ホースニップル設置
前出画像のあまりのカッコ悪さに背筋が寒くなり、 壁面と天井・床板の面取りを多くしてみました。
側面より
正面より
なんか、2代目スケバンデカ(古っ)の植木鉢かぶりの図に似てる気がします。
ピストン手配とポートタイミング
ピストン(=ボア)は今度こそ54mmにしたいの。
前回も54mmにする計画で進んでいたものの、 ピストンを受けとってみると55mm。
(→そこいらへんの経緯はこちら)
なんか54mmピストンを入手しようとすると、 入手直前になってボツになることが多い。
2005現在で、54mmピストンを正規販売してるのって
カメレオンファクトリー
くらい。
他社が台湾製格安54mmピストンを販売しようとする動きを察知すると、 カメファクが全社を上げてツブシにかかってるんじゃないかってくらい、 54mmピストンは入手しずらい。
じゃぁ、いっそカメファクから買っちゃいましょうか....
台湾製に比べると3倍くらいの値段なんだけど、 カメしか選択肢がないんじゃ仕方ないですよね。
近くのNap's世田谷でGアク用メガトン110キット補修ピストンキットを取り寄せてもらいました。
2005/5月時点でリング、ピン、サークリップ込みで\14,700でした。
ピストンだけでこんな値段になると気軽に焼き付かせるワケにはいきませんね。
手元に届いた54mmピストンの重量を計ってみました。
117.6g、4VPに次いで軽い。
(→ピストン重量表)
ショルダーは4VPピストンより0.8mm低いのですが、前回55mmとほぼ同じ高さになるので、 ポートタイミングなどは前回のデータがそのまま流用できました。
シリンダベース面を切削します。
ロングストローク対応のためです。
参照記事
→ロングストロ−ク化、腰上調整
イビツな形で伸びていた冷却フィンがなくなって、 回転バランスが取れそうだったので、旋盤で加工してみました。
W/Jベースプレートを組んだ状態で排気ポートを加工。 ベースプレート下面に排気ポート天井の形状ができました。
削りが一段落したアルミパーツをアルマイトに出してきました。
燃える男の赤いシリンダー、ってとこです。
当然ながら、排気ポート天井にも一部赤アルマイトの面が見えてきます。
ポートを追加加工すればアルマイト面はなくなっちゃいますが、 なくたって何も問題はないでしょう。
54mmピストンに合わせてシリンダーをボーリングに出します。
ピストンとボアの間のクリアランスはどのくらいに設定しましょうか。 ピストンキットに入ってたカメの取説には「6/100(mm)推奨、4/100以下にはしないでください」とあります。 でも水冷になるんだしさ、空冷の場合4/100が限界値ってことは水冷だったら4/100くらいが適正値なんじゃないかな。
ちょっと根拠が弱いけど、慎重にナラシをやることにして、厳しいようだったらもう一回ホーニングに出しても良いか。
ボーリングの依頼先は前回55mmと同様、
JOG工場
の近藤さん。
送付の際のメールに「クリアランスは4/100でお願いします」と書いたら、 「水冷ですね?」と返事が、うひょぉ〜、さすがベテラン、鋭い。逆に考えるとやっぱり適正値なんだろうな。
仕上がったシリンダーを取に行きました。
シリンダーといっしょにピストンを渡してあったんですが、 近藤さんが「このピストンえらい軽いですね!」と、Axis90用の54mmピストンでもこの軽さのものは無いのだそうです。
以前、
Haruさん
という知り合いが「カメのボアアップキットは付けただけで100km/h出た」と言ってましたが、 この軽さとショルダーの低さ(=ポートタイミングが高回転側にシフト)によって実現した性能だったんでしょうか。
Haruさんからもらったカメシリンダはポートの仕上げもキレイだったし、 値段相応の価値はあったと考えて良いかもしれません。
ただし、なんでHaruさんからカメシリンダーをもらったかって言うと、 ピストンに穴があいたから。
カメピストンでもあく時はあく、と。
ヘッドブロックと燃焼室
ヘッドブロック
外周フランジに穴がバーッとあけてありますが、 このうち4個はシリンダスタッドが通ります。
スパークプラグの電極開き位置を任意の方向に向けるために、 スタッドを通す穴は15度毎に選べるようになってます。
余った穴は冷却水が通ってヘッドブロックを冷やします。
プラグネックの周りは殺風景だったのでフィンを2枚設けてみました。
燃焼室はHIDヘッドVer.2形状
燃焼室容量は12.5ccとしました。
そしてこの燃焼室形状、ランナーのエンジンのために作った2個目のヘッド形状を、 ボア基準でスケールダウンしたものなんです。
そのランナーの2個目のヘッドは、 チャンバー装着・PWK33でそこそこパワーも出しつつ、 燃費が20km/Lというなかなかの当たり形状だったんんです。
燃焼室形状のおかげとは言い切れませんが、 とかく手探りの燃焼室形状決定、薄弱であっても何か根拠があれば助かります。
ロングストローク化に伴うピストンのオーバーストロークはスキッシュ深さで吸収します。
前回55mmのときはスペーサーからの放熱も期待して厚さ2mmの円形スペーサーを挟みましたが、 vuuさんもスキッシュを彫り込む方法でロングストロークを組んでたことがあるし、 ヘッド加工のお客さんからも同様の理由でスキッシュ深さを指定されることがよくあります。
実際にスキッシュとして使われる深さは0.5mmとしました。
スキッシュの角度は標準の11度ではなく、 カメピストンのショルダー角に合わせて14.5度としました。
ヘッドブロックにはアルマイトは掛けません。 アルマイト層は電気を通さないので、 プラグから放出された電子が行き場を失っちゃいます。
アルマイト掛けたってちゃんと火は飛ぶと思うけどなんとなく気になるじゃん。 アルマイト掛けるんだってカネかかるんだしさ。
さぁ〜、これでシリンダ周りはほぼできました。
次はラジエターやウォーターポンプなど、冷却デバイスの検討に
ザーーーーー、プツッ
冷却デバイス設置編に続く
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